超対称性は、標準模型に内在する諸問題を解決するものとして、その存在が非常に有力視されている対象性である。現実には超対称粒子がこれまで発見されていないことから、超対称性は破れていなければならない。この超対称性の破れの機構として、これまで次の2つの考え方が提唱されている。1つは超対称性が高いエネルギースケールで破れて、それが重力相互作用で伝播するという考え方であり、2つ目は低いエネルギースケールで超対称性が破れ、それがゲージ相互作用で伝播するという考え方である。本研究の目的は、この2つの考え方を現象論的、宇宙論的視点から総合的に比較検討し、新しい知見を得ることである。今年度は、低いエネルギースケールでの超対称性の破れのシナリオで現れるグラヴィティーノ(重力子の超対称対)が宇宙の暗黒物質になる場合に、宇宙の構造形成について調べた。そして、グラビティーノ暗黒物質によって形成される宇宙の構造(銀河、銀河団など)が現実に観測されている構造を再現しないことを示した。これはグラビティーノ暗黒物質の大きな困難であると考えられる。また、最近理論的にも現象論的にも注目される強結合ヘテロティック弦理論(M理論)における超対称性の破れと、その結果現れる超対称粒子の質量について、興味深い知見を得た。これらは、論文としてまてめてある。
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