破れた超対称性は、標準模型の自然さの問題を解決するものとして、その存在が期待されている。この考えが正しければ、次に超対称性の破れの機構を解明することが素粒子物理にとって非常に大きな問題となる。本研究の目的は、超対称性に破れに付随する素粒子現象や宇宙論的現象を調べることで、超対称性の破れを探るてがかりとなるような新しい知見を得るというものである。 本研究の成果として主なものをあげると、低いエネルギースケールの超対称性の破れのシナリオに固有の軽いグラビティーノ(重力子の超対称対)が宇宙の暗黒物質をなす可能性があるが、その場合の宇宙の構造形成を調べ、グラビティーノ暗黒物質によって形成される宇宙の構造(銀河、銀河団など)が、現実に観測されている構造を再現しないことを示した。また、超弦理論の強結合領域の研究の発展は、弦理論のもつ構造の豊かさを明らかにしてきたが、超弦理論の示唆する素粒子の統一模型の研究も、こうした発展を受けて従来の枠をこえた可能性を模索しはじめている。例えばE_8×E_8ヘテロ型弦理論の強結合領域を記述するヘテロ型M-理論においてゲージ結合の統一を自然に説明する可能性が提唱されている。我々はこのヘテロ型M-理論においてゲージーノ凝縮による超対称性の破れの機構について詳細な検討を加え、その理論的な構造と、実際の超対称粒子の持つ質量スペクトルについて研究した。また、そうしたパターンが現象論や宇宙論にどのような影響を与えるか議論した。その他、アクシオンの性質などに関して、興味深い知見を得た。
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