原子核の巨大共鳴状態の研究における最近の最大のトピックスは2重巨大共鳴状態の発見とガモフ・テラー巨大共鳴状態の励起強度の確定である。 前者はドイツのGSIにおいて、相対論的高エネルギー重イオン反応によるクーロン励起によって発見された。存在するとすれば原子核の状態密度の高い、高エネルギー領域(約30MeV)に現れるために、この発見は理論的には殆どの研究者が予想していなかったものである。従って、発見されると多くの研究者によってその理解が試みられたが、その励起強度は原子核の標準的な模型の2倍ほど大きいことが判明し、従来の原子核の集団運動の理解にとって深刻な問題となった。我々は昨年、模型に依らない和則による研究を行い、原子核構造の側面からは説明不可能であること、問題は核反応機構にあることを示した。今年度はさらに研究を進め、励起強度に対する中間子による交換流の寄与を計算し、依然実験値を説明することが不可能であることを明らかにした。2重巨大共鳴の励起強度は、現在も原子核理論にとって深刻な問題として残されている。 もう一つの重要な実験は、ガモフ・テラー励起の和則値に関するものである。従来、和則値の50%の存在しか知られておらず、これまでその事実をもとにスピンに依存する原子核の応答関数やパイオン凝縮などが議論されてきた。また、一方では、有馬らの原子核の磁気能率の計算と矛盾するものであった。ところが、最近東大の酒井等の実験グループによって和則値の90%が存在することが確かめられた。我々はこの実験の結果、従来広く使われてきた原子核のLandau-Migdalパラメータが大きく書き変えられること、そのため原子核におけるパイオン凝縮の臨界密度が安定核の2倍程度になることを示した。現在、さらに有馬等の磁気能率の計算との整合性を東大の理論グループと検討中である。
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