研究概要 |
ここ1-2年の間,AdS/CFT対応と呼ばれる概念が多くの人の注目を集めており,我々の研究テーマもこの方向に向けられた.この対応とは,(d+1)次元空間のAdS超重力理論の境界にはd次元の共形場理論が出現するというもので,超弦理論の将来に大きな意味を持つと考えられている.窪田は学術振興会奨励研究員の吉田祐介とともに,三次元AdS重力を調べた.この理論は,Wittenが十年ほど前にChern-Simonsゲージ理論として定式化することを提唱しており,この手法を用いた場合に二次元共形場理論がいかにして出現するのか,そのメカニズムを調べた.これはBrown-Henneauxがアインシュタイン重力で行った分析を,Chern-Simonsゲージ理論の場合に再考することに相当する.われわれの分析の結果,ゲージ理論固有のGauss-law constraintのあいだのPoisson括弧式がVirasoro代数になり,その中心電荷の半古典的な場合の形を決定した. 中津は梅津,横井の二人とともに三次元ブラックホールの内部構造に関わる問題を,AdS/CFT対応の立場から調べた.上に述べたBrown-Henneaux対称性を量子化し,ブラックホールの状態がVirasoro代数のプライマリー状態と一対一に対応していることを主張した. 中津はさらに研究を進めて,大学院学生の横井とともに,ブラックホールのエントロピーを微視的に求める問題にAdS/CFT対応を応用した.type-IIBの超弦理論のブラックホール解のいわゆるnear horizon limitというのは,三次元BTZ解で記述される.三次元のAdSと二次元共形場理論との対応を利用することになるBTZブラックホール解の状態というのはN=(4,4)の二次元超対称シグマ模型におけるプライマリー状態と同定される.この状態の数え上げをelliptic genusの知識ならびにN=4の超共形代数代数のユニタリー表現の知識を用いて行い,Bekenstein-Hawkingのエントロピーの導出に成功した.
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