研究概要 |
現在の宇宙物理学における観測によれば,宇宙には暗黒物質と呼ばれる未知の物質が存在する.この物質は非バリオン的であると考えられており,素粒子物理学の標準模型を越える超対称理論での,ニュートラリーノが有力な候補であると思われる.LHC以降の将来の加速器ではこのニュートラリーノを大量に生成することが真剣に考えられ始めている.そこで窪田と田中は,横井,大学院学生の枝元,進藤の協力を得て,ニュートラリーノと陽子の非弾性散乱の断面積を数値的に計算した.モデルとしてはMSSMを用い,パートンの分布関数としてはPDFLIBと呼ばれるものを使用した.いわゆるμパラメータを-75GeV,squarkの質量を300GeV,tanβ=2,SUSYを破るパラメータをM_2=120GeVとするならば断面積は4.65×10^<-2>fb程度となり,将来の実験として十分意味のある大きさであることが分かった.さらにこの断面積の種々のパラメータ依存性も調べた. 窪田と中津は,AdS/CFT対応において確率過程的な描像が可能かどうかを調べた.d次元のCFTに対応するd+1次元の重力理論の関係を,余分な1次元方向を仮想的な時間とみなし,時間が無限大となって平衡系に到達したものがCFTであるとなるようFokker-Planck方程式を調べた. 窪田はWienにいるJian-Ge Zhouとともに,球面に巻き付いたD2-braneの電荷がいかに定義されているかという問題を取り上げた.この目的のために,k個のNS5-braneとBPS D3-braneの配位を考察した.NS5-braneに垂直方向のCFTは,レベルkのSU(2)WZW模型で記述されるが,このCFTのCardy境界状態はある軸の周りに180度回転することができる.そして回転された状態はHanany-Witten効果によりD1-stringを生成したことに対応する.この結果D2-braneの電荷はkだけ変更されたことになる.即ちD2-braneの電荷はmodulo kでのみ定義されること,そしてその所以がHanany-Witten効果と結びついていることをCardy境界条件の言葉で説明できたことになる.
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