将来のTeVエネルギー領域での素粒子実験において、粒子崩壊点検出器は物理解析上鍵となる役割を果たす。我々はその最有力候補であり3次元的飛跡検出を可能にするCCD素子について開発研究を行った。 初年度、高エネルギービーム照射実験を、運転温度、入射角、入射運動量をそれぞれ変えつつ2回にわたって行い、次のことが明らかにした。1)常温付近運転で最小イオン化粒子飛跡を十分なS/N比で捕えることに世界で初めて成功。2)ほぼ100%の検出効率を実証。3)位量分解能3.0μmを達成。この値はCCD飛跡検出器として低温下にて運転中の最先端実験、米国SLD実験での達成値4.6μmを凌ぐ値である。さらに我々は、異なるCCD製品に対応するよう、汎用高速駆動ボードを設計開発を行い、再度飛跡検出実験を行った結果、2〜3μmの位置分解能を得た。 併行して大強度放射線を当て、性能劣化の度合いを調べた。CCDの性能の劣化は転送中の電荷減衰の増加を招く。まず、大強度電子線を当てたが、これは主に素子表面に放射線損傷を与える。表面での暗電流を抑えるための駆動時反転ゲート電圧を上昇させることにより、損傷の効果を最小限に抑制可能であることを実証した。 損傷を受けた素子の振舞いを予測するため、精密なシミュレーションを開発し、実験結果をよく再現することがわかった。これをもとに、新たな駆動方式を考案し、損傷を受けた素子についても、0℃以上でも損傷の影響を十分低く抑える可能性も見出した。 さらに、素子を150℃の高温にさらすことにより、損傷で生じた一部の損傷準位を除去することにも成功した。これらの研究により、将来の電子陽電子衝突型直線加速器実験で予測される放射線被爆においても、CCD素子を飛跡検出器として利用できることに目処が立ちつつある。
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