平成9-10年度の本研究計画においては、 (1)レプトン・セクターのCP非保存の問題、および(2)宇宙のダークマター・ニュートリノ仮説の実験的検証法に重点を置いて研究を行った。 (1) 長基線ニュートリノ振動実験によってこれを観測できる可能性の検討、とりわけ小林・益川位相による真の物理的効果と地中の物質効果による偽のCP非保存との構造的差異、この分離方法について詳しい分析を行った。このなかで数%の精度でCP非保存効果を測定するための方法として2つの検出器のイベント数の差をとる新しいアイデアを提案した。また、物質効果による汚染効果が無視できるチャネル、マイナー・チャネル(振動確率自身は小さい実験的には難しいチャネル)がどのパラメターの領域にも常に存在することを、暗黒物質程度のニュートリノ質量差の場合について断熱近似と物質効果摂動論に基づく系統的な取り扱いによって明らかにした。 (2) 宇宙のダークマター・ニュートリノ仮説の実験的検証法についていくつかの考察を行った。クォーク・レプトンの三世代の枠組みの中で太陽、大気ニュートリノの観測事実を拘束条件として課すと可能なニュートリノ質量のパターンは数電子ボルト程度の質量をもった縮退ニュートリノ解か、またはニュートリノ間の質量差が数電子ボルト程度の階層的ニュートリノ解の二つのタイプの解のみが許される。太陽、大気ニュートリノの観測事実を拘束条件としておくと、振動パラメターがCHOOZ実験の有感領域にある限り、第一の解、つまり縮退ニュートリノ解しか許されないことを示した。また、この第二の解については長基線ニュートリノ振動実験で(ミュー・ニュートリノ-->電子ニュートリノ)/(ミュー・ニュートリノ-->ミュー・ニュートリノ)比を観測することによって実験的に決着させることが可能であることを指摘した。 このような縮退したニュートリノ質量パターンはニュートリノが(シーソー模型で予言されるように)マジョラナ粒子である場合には、はっきりした実験的予言を行うことができ、この効果を二重ベータ崩壊実験で数年以内に検出できる筈であることが示せる。
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