研究概要 |
1.QCDでのカイラル相転移と金属の超伝導状態への相転移との類似性に注目して、カイラル相転移の動的過程における散逸効果を分析した。その結果、有限の化学ポテンシャルを持つ系ではオーダーパラメタの揺ぎに対応する励起モードがクォークに吸われる過程(ランダウ減衰)が重要であることが分かった。 2.更に、ランダウ減衰が効く場合は、動的過程を記述する巨視的な運動方程式は拡散方程式型(時間依存ギンズブルグ-ランダウ方程式)でよく近似できそうであることが分かった。 3.高温相(QGP相あるいはカイラル対称性の回復した相)から低温相に相転移するときに現れる素励起としてのソフトモードにはフレーバー依存性があり、ストレンジセクターではu,dセクターと異なり、ソフトモードが明確には現れないことが分かった。 4.CERESの実験で見つかったレプトン対生成の低エネルギー(400-600MeV)領域での異常な増大を説明するシナリオの一つである、多体効果によるベクトル中間子のチャンネルでの強度関数の軟化を調べる手段として電子-核散乱、特に、準弾性散乱が有効であることを指摘した。 5.相転移の動的過程の記述に有効な理論である繰込み群の数学的構造を分析して、繰込み群方程式が、方程式の境界条件についてのものであることを強調し、不変多様体論との関連が明らかな形での新しい数学的(幾何学的)定式化を与えた。また、その応用として量子力学での波動関数の摂動論による展開の新しい総和法を提案し、その有効性を非調和振動子の場合に例示した。
|