研究概要 |
有限核でのカイラル対称性の可能な部分的回復およびシグマ中間子の検証を目的として、有限核にシグマ中間子を創生する実験を前年度提案した。自由空間でシグマ中間子を同定することは簡単なことではないが、カイラル対称性が部分的に回復している可能性のある原子核中ではよりきれいにこの同定が行われ得る。 しかしながら、一般に有限密度系にハドロンを作ったとき、そのハドロンがその同一性を保持するとは限らない。まわりの粒子と強く相互作用し「分解」し得るからである。そもそも、シグマ中間子の場合、自由空間でもσ@282πの過程を含めなければ、その記述は現実的ではない。このような場合、物理的に意味のある観測量はスペクトル関数ρ(ω,q)である。これは、そのハドロンと同じ量子数およびエネルギーωと運動量qを系に与えたときに、系の応答を与える応答関数R(ω,q)の虚部に等しい。 今年度、2πとの結合の効果を含めた、有限密度系でのスカラーアイソスカラーチャンネル(以後、シグマチャンネルと呼ぶ)のスペクトル関数の計算を、線形シグマ模型を用いて行った。カイラル対称性が回復していくとき、シグマ中間子の質量の減少に対応するスペクトル関数のソフト化に伴い、2m_πの閾値付近でスペクトル関数が顕著に増大することを発見した。興味深いことは、この増大がカイラル対称性の比較的わずかな回復によっても見られることである。そのような増大がすでに実験で見つかっている可能性を指摘し、さらにこの事を検証するための有限核を用いたいくつかの実験を提案した。
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