(1) 相転移の臨界現象への応用をめざし、包絡線理論に基づく繰り込み群法の一般的な枠組みの発展を行った。また、繰り込み群法が初期値についての理論であることを明らかにした。その副産物として、繰り込み群法が量子力学の波動関数の摂動級数の総和法として有効であり、しかも、Bender-Bettencourtによる多重スケール法よりも簡便であることを示した。 (2) 有限密度系では平衡状態での相転移の理解自体がまだまだ不十分である。非摂動的繰込み群(Flow equation)を有限密度系のカイラル相転移の問題に適用する研究をドイツのH.Pirner教授(ハイデルベルグ大学)らと始めた。カットオフとして、正則時間法を用い、線形シグマ模型の自由エネルギーの従う繰り込み群方程式を解析的に求めることに成功した。 温度0での有限密度系に対する数値計算の結果、有限密度でのカイラル転移は一次になることがわかった。これは、南部-ヨナラシニオ模型による平均場近似の結果や、カイラルランダム行列理論の結果を検証するものである。 (3) スカラー-アイソスカラーチャンネルの強度関数に注目し、有限密度系でカイラル対称性が部分的に回復している場合、エネルギーが2パイ中間子の質量の閾値あたりに鋭いピークが現れうることを示した。また、それがすでにCHAOSグループによる、パイ-核散乱からの正負の中間子を計る実験で得られたスペクトル関数にすでに観測されている可能性があることを指摘した。更に、この予想を検証するために、有限核を標的とするいくつかの実験を提案した。入射粒子として、重陽子を用いる事、観測する粒子として4ガンマを計測すること等を提案した。
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