研究初年度における研究計画は、サブ・ピコ秒ポンプ・プローブ法による実験報告がなされている。GaAs/AlAs超格子系における熱伝導率の異常を理論的に解析することである。この系における熱伝導率を支配しているものは、(1)フォノンの群速度、(2)フォノンの同位体元素による弾性散乱、(3)フォノンのウムクラップ非調和(非弾性)散乱、の3つである。このうち先ず、(2)の同位体散乱に着目し、量子論に基づく散乱レートの計算により、その大きさを定量的に評価した。この散乱は、半導体の構成元素であるAlとAsは単一の同位体よりなるが、Gaが^<69>Gaと^<71>Gaの2つの同位体元素を含んでいることに基因している。従って同位体散乱はGaAs層内でのみ生じ、AlAs内に弾性散乱は存在しない。計算の結果、低周波数領域では周波数の4乗に比例するバルク物質におけるものと同じ散乱レートが得られたが、周波数が増加するにつれてバルク結晶におけるものとは異なり、半導体超格子特有のフォノンの分散曲線の折り返し効果と、それに伴うバンド・ギャップの出現により、散乱強度の等方性とモードによる不変性が破れることが見出された。また、その結果(A)超格子ではバルクGaAsに比べ散乱レートが減少する、(B)縦波音響モードの散乱が横波音響モードに比べ低下する、事実が明らかとなった。これらは同位体散乱が支配的な温度領域において、超格子系では熱伝導系が増大すること、さらに縦波音響フォノンが熱伝導に大きく寄与していることを示している。 以上の結果は米国物理学会誌に発表された。現在、超格子中のフォノン群速度に関する計算、並びに非弾性散乱の解析を実施中である。
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