本研究の目的は、サブ・ピコ秒ポンプ・プローブ法による実験報告がなされている。GaAs/AlAs超格子系におけるフォノンのダイナミクス、特に熱伝導率の異常を理論的に解析することである。この系における熱伝導率を支配しているものは、(1)フォノンの群速度、 (2)フォノンの同位体元素による弾性散乱、(3)フォノンのウムクラップ非調和(非弾性)散乱、の3つである。研究初年度においてはこのうち先ず、(2)の同位体散乱に着目し、量子論に基づく散乱レートの計算により、その大きさを定量的に評価した。 研究2年目に当たる平成10年度においては、 [I]初年度の成果に基づき、サブ・ピコ秒ポンプ・プローブ法を用いた熱伝導率に関する同位体散乱効果の測定(米国ブラウン大学)結果を、同グループと共に理論的に解析した。結論として、熱伝導の同位体不純物の増加による低下の割合が、理論計算により半定量的に説明され得ることが明らかになった。[II]さらに超格子系の熱伝導率に対するフォノンの分散曲線の折り返し効果と、それに伴う群速度の減少の影響をSi/Ge系とAlAs/GaAs系について考察した。その結果、Si/Ge超格子では音響不整合が大きいため、室温近傍でバルクSiに比べ、約1桁の熱伝導率の低下が見積もられるが、一方AlAs/GaAs超格子では、バルクGaAsに比べ、約1/2〜1/3の低下しか見込まれないことが判明した。このことは、さらにフォノンの非調和散乱が、AlAs/GaAs超格子の熱伝導率の異常な振る舞いに大きく寄与していることを示唆している。研究最終年度である平成11年度においては、この非調和散乱に関する理論的な解析を展開する。
|