本研究の目的は、サブ・ピ秒光パルス法による実験的研究が新展開を見せつつある、半導体ナノ構造中のTHzフォノンのダイナミクスを理論的に解明することである。 研究最終年度である平成11年度においては、これまでの成果を踏まえ、2番目のテーマであるナノ構造中の表面・界面における局在振動と、フォノンの共鳴相互作用に関する解析を実行した。興味深いのは、半無限超格子表面に局在振動(表面フォノン)が存在する場合である。この系に対応して、表面側の真空を液体で置き換えた固体(基盤)-超格子一液体の結合系におけるTHzフォノンの透過を考察した。一般に大きな音響不整合のため、固体一液体間のフォノン透過率は小さい(GaAs-H_2O間では〜0.2)。しかしその界面に表面フォノンが存在し得る超格子が介在すると、表面フォノンの固有振動数を持つ入射フォノンはその界面を透過率1で共鳴的に透過することを明らかにした。さらに、このような固有振動数を含むフォノンパルスが固体・液体界面を横切って伝播するときの時間発展を考察した。特に、GaAs-(GaAs/AlAs)_N-H_2Oの系において、矩形パルスを入射させた場合の反射、透過波束の時間遅れや進みを、反射・透過振幅の位相の振動数微分で定義される位相時間に基づいて解析した。著しい特徴として、反射フォノン波束にはダブルピーク構造が生じることを、解析的計算と同時に数値シュミレーションにより明らかにした。また、その物理的起源についても表面局在振動の有限な寿命に由来するものであると、突き止めた。
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