研究概要 |
ドープした半導体の表面バンド構造は吸着に敏感であり、吸着の被覆度の増加とともに表面でバンドが湾曲し、キャリア涸渇層あるいは蓄積層が形成されていく例がいくつか知られている。前年度に引き続き、多電子系の誘電応答理論を用いて、キャリア涸渇層形成過程における表面素励起の変化を追跡した。キャリア系の表面プラズモンと表面極性フォノンが結合して生ずる2つの結合モード(エネルギーの高い方をA、低い方をBとする)とキャリア系に起因する遮蔽電荷を伴う表面極性フォノンモード(C)のエネルギー分散、結合形態、空間構造などを調べた。涸渇層がない場合は、結合モードA,Bともに上向き分散を持つが、涸渇層が形成されていくと、分散曲線が低エネルギー側にシフトし、下に凸の反り形の分散に変わっていく。これは、下向き分散を求める涸渇層の効果と上向き分散を求めるプラズモンの性質が競合するためである。誘起電荷密度δρをキャリア密度の揺らぎによる成分δρ_<EL>とフォノン縦分極による成分δρ_<PH>に分解すると、モードAではδρ_<EL>とδρ_<PH>の空間的変動が同位相になるのに対し、モードBでは逆位相になり、δρ_<EL>の方が大きい振幅を持つ。涸渇層が形成されていくと、モードAではδρ_<PH>の寄与が増すのに対し、モードBではδρ_<EL>の寄与が増す。このようなモードの性格の変化は、エネルギー損失強度に反映される。涸渇層が形成されていくときのδρの分布の変化を見ると、結合モードA,Bのいずれにおいても、表面付近の誘起電荷が強く集中した中心部分から深部に伸びる尾状の減衰が次第に消失していく。モードCのδρの分布は、遮蔽電荷を引きずりながら表面極性フォノンが伝搬する様子を明瞭に示す。キャリア涸渇層が形成されると、あるいは波数が大きくなると、遮蔽電荷がフォノンに及ぼす効果が弱くなり、エネルギー損失強度は強くなる。
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