吸着の被覆度の増加とともに、ドープした半導体表面にキャリア涸渇層あるいは蓄積層が形成されていく例がいくつか知られている。本研究では、まず局所密度汎関数法を用いて、キャリア涸渇層形成過程における基底状態及び熱平衡状態の変化を解析した。キャリア密度プロファイルの形状の移り変わりやその温度依存性などを見出した。次に、熱平衡状態の計算結果を基礎にし、時間依存の局所密度汎関数法を用いて、キャリア涸渇層形成過程における表面素励起の変化を系統的に解析した。ここでの表面素励起は、キャリア系の表面プラズモン(PL)と表面極性フォノン(PH)が結合して生ずる2つの結合モードA、Bとキャリア系に起因する遮蔽電荷を伴う表面極性フォノンモードCを指す。主要な研究成果は次のように要約される。 (1)涸渇層形成過程における各モードのエネルギー分散とエネルギー損失強度の変化を解析した。モードAあるいはBでは、初期の上向き分散曲線が低エネルギー側にシフトすると同時に、下に凸の反り形の分散曲線に移り変わる。 (2)誘起電荷密度分布におけるキャリア成分とフォノン成分の位相関係と振幅比を解析することにより、涸渇層形成過程におけるPLとPHの結合形態の変化が明らかになった。 (3)誘起電荷密度分布の等高線図から、涸渇層形成過程におけるモードAあるいはBの空間構造の著しい変化を見出した。また、モードCでは、PHが遮蔽電荷を引きずりながら伝搬する様相と遮蔽電荷分布の変化が明らかになった。 (4)本解析により、高分解能電子エネルギー損失分光(HREELS)による実験結果が明確に説明された。 さらに、鏡面反射配置のHREELSと関連して、低視射角の入射角を固定して入射エネルギーを幅広い範囲で変えることにより、幅の狭いプローブ分散領域を走査することができ、従って表面励起モードの分散関係が正確に測定できることが分かった。 なお、キャリア蓄積層形成過程における表面素励起の変化については、今後の課題となった。
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