表面拡散場中での原子ステップの運動について系統的に研究し、次のような具体的成果を得た。 1.不安定化した界面やステップがカオス的な運動をするか安定構造をとるかは系の対称性に依存する。スティフネスやカイネティクスの異方性が及ぼす効果を一般的な形で考察した。とくに吸着原子のドリフトによるステップの蛇行について、流れの方向を制御してカオス的運動を周期構造に変えられることを示した。 2.Siの通電実験で見られるバンチングに対応して、1次元モデルのシミュレーションと理論的解析からステップ束の大きさが時間の1/2乗に比例して大きくなることを見出した。だがドリフトが小さい場合にはこの冪の値は減少し、すぐに連続体モデルで予想した周期的に並んだステップ束が現れ、定常に達する。 3.2次元に拡張した連続体モデルの非線形発展方程式を導き、その数値積分によって微斜面のパターン形成を解明した。とくに蛇行とバンチングの二つの不安定化が同時に起こると、対称軸に対して傾いた畝状構造を持った二つのドメインが発達することを見出した。 4.吸着原子がステップを投下していく課程も考慮して、ドリフトによる蛇行とバンチングを、線形安定性解析と格子モデルのモンテカルロシミュレーションによって総合的に調べた。その結果、ステップの透過性の導入によって、最近発見されたSi(111)面での蛇行と我々の理論の予測との矛盾が解消できることがわかった。 5.ファセット上の3次元的な島の崩壊過程を同心円状ステップのモデルで理論的に解析し、頂点部分にできるファセットの成長則を導いた。またSiのナノメーター程度の大きさの島の崩壊の実験を解析し、ステップの巨視的なパラメタによる記述が驚くべきことにこの大きさまで有効であることが分かった。
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