電子照射されたイオン結晶表面の水の吸着形態と摩擦力の関係を走査型フォース顕微鏡で調べた。電子照射される前の表面の吸着状態は数時間にわたって複雑な様相を示すのに対し、電子照射された表面の水の吸着形態は、短時間で島状から一様な膜への成長に変化した。これは、電子照射によって表面にFセンターがつくられた後、水の解離吸着により形成されたOHセンターに起因している。結局、電子照射された表面ではVolmer-Weberメカニズムによる吸着形態を示した。 アルカリハライド結晶表面の負荷に対する摩擦力を摩擦力顕微鏡で調べた。単原子接触をもつ数nNの低負荷領域では、表面結晶格子を反映した周期的ステックスリップが観測され、摩擦力は一定の値を示した。 さらに、負の摩擦も同時に観測された。負荷を増加していくと、表面の歪がおこり摩擦力がさらに増加するが一定の値を示した。さらに、増加すると急激な摩擦力の増加が起こりその後また一定の値を示した。結局、負荷に対し摩擦力は階段状に増加するがわかった。走査方向を変えると異なる摩擦力で階段状に増加することもわかった。これは、負荷の増加によって、チップ-表面間の接触面積の離散的増加がおこり、走査に必要なチップ表面間の切断力が離散的になることに起因している。つまり、単突起接触による低摩擦領域で、摩擦力(せん断力)の離散化、量子化がみられた。従来知られてきた巨視的摩擦を多突起接触による摩擦ととらえ直すと、摩擦力顕微鏡で観測された結果と巨視的摩擦の関係は、単突起接触と多突起接触の問題として関係づけられことになった。 さらにC_<60>分子のナノサイズ摩擦特性を調べた。探針の負荷に応じて摩擦特性が急激に変化した。これは、負荷の増加に応じて接触領域が単分子から数分子に増加したためである。単分子接触になることによる急激な摩擦力の減少は、C_<60>分子の回転が生じたことによる。
|