透過型電子顕微鏡内その場可視分光測定法により、CuPt型の自然超格子構造を持つGaInP中における点欠陥の電子励起状態での動的挙動を調べた。試料は価電子帯と伝導帯間のバンド間電子遷移により1.9eV付近にピークを持つ可視発光を示す。この試料に電子線を照射すると、電子のエネルギーが150KeV以上の場合、照射量の増加に伴うピークエネルギーの移動が観測された。この移動は超格子構造の崩壊(不規則化)に伴うバンドギャップの変化と理解された。 不規則化は電子線照射下でのGaおよびIn両原子の位置置換で生じる。電子線回折法では定量測定が困難な照射量が10^<20>cm^<-2>以下での照射初期の微小な不規則化過程を、高エネルギー分解能の可視分光測定により達成した。この照射量領域での不規則化過程は、従来のknock-onモデル、すなわち定常的な点欠陥の導入およびその拡散を介した不規則化では説明できない。実験では、ピークシフトと共に照射量の増加に伴う発光のピーク強度の減少も観測された。発光強度の減少速度の解析により電子線照射誘起の格子欠陥の関与する1次反応での非発光準位の導入、すなわちフレンケル型欠陥の形成と理解された。不規則化の機構はまだ考察中であるが、電子励起状態では照射初期の非定常的な欠陥導入段階に特異な点欠陥反応が生じているようだ。現象の理解には定常状態に至るまでの過渡的な点欠陥反応をより詳細に調べる必要がある。 電子線と可視光の同時照射状態での特異な点欠陥反応のその場観察を達成した。これはTEM-可視分光その場観察法の電子励起状態での点欠陥の動的挙動の研究に対する有益性を示すものである。
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