研究概要 |
チタン酸バリウム(BaTiO_3)には、強誘電体の代表的物質である立方晶型(c-BaTiO_3)の他に六方晶型(h-BaTiO_3)が存在し,六方晶型も低温で強誘電性を示す。本研究では、この二つのチタン酸バリウムに電子をドープしたり、静水圧を印加することで電子状態を変え、それに伴う電子物性の変化を、特にフォノンのソフト化が関与した構造相転移との関係で調べた。 一年目の設備費で極低温冷凍機を購入し、その冷凍機にクランプ式のマイクロボンベを取り付けることで、大気圧から1万5千気圧(1.5GPa)の圧力域、10Kから300Kの温度域での誘電率や電気抵抗の測定が可能となった。1.5GPa以上の高圧域については東大物性研の高圧装置を利用し、ソフトモードの振る舞いを調べるためのラマン散乱実験は北大電子研との共同研究で行った。以下、結果を要約する。 1) 還元することで半導体化したh-BaTiO_<3-δ>、c-BaTiO_<3-δ>は、それぞれ2GPa、6.5GPa以上の圧力域では、全温度域で金属的な電気伝導を示す。この圧力は、それぞれ六方晶・斜方晶転移(To)、立方晶・正方晶転移(Tc)の消失する圧力に対応する。 2) 高圧誘起の金属相では、両物質ともに100K付近まで電気抵抗のT^2則が成り立ち、強相関電子系として取り扱えることを示唆している。 3) 還元h-BaTiO_<3-δ>の電気抵抗に異常が現れる温度はラマン散乱実験で得られたソフトモードの凍結する温度と一致した。すなわち、電気抵抗の異常は六方晶・斜方晶転移に伴うものである。 4) 還元h-BaTiO_<3-δ>の六方晶・斜方晶転移(To)における臨界指数βは酸素欠損量δの増加に伴って変化し、δ=0でβ〜1/3であるが、δ=0.02ではβ〜1/2となる。 5) 電子をドープしていない純粋なc-BaTiO_3,の低温での誘電特性を調べたところ、100K付近にリラクサー的な誘電分散が存在することを見いだした。この分散は純度のよい引き上げ結晶でのみ見られ、フラックス法作製の結晶には現れない。
|