研究概要 |
本研究では,半導体の破壊に伴う発光,電子放出などの現象のメカニズムを解明することを目標にして,2年計画で破壊の電子論的な研究を行っている.固体の破壊に関して,電子的論的解明の必要とされる現象には,絶縁体,半導体材料の破壊に伴う発光,電子放出などのほか,遷移金属材料の水素脆化などの現象がある.本年度は,半導体Siの亀裂近傍に局在化した電子状態を計算する予備的研究を行った.また,遷移金属の水素脆化のメカニズムを探る電子論的な研究も行った. 半導体の亀裂近傍の電子論的研究では,亀裂近傍の電子の局所状態密度を計算するために,リカ-ジョン法にもとづく計算プログラムの作成を始めた.本年度は,2次元モデル系に対する計算プログラムを作り,計算精度,計算時間のチェックを行った.次年度では,本格的な計算プログラムの開発と,Siの亀裂近傍の局所状態密度の計算を行う予定である. 亀裂近傍の電子状態と関連して,遷移金属の結晶格子の変形による電子構造変化の計算を行った.面心立方構造のパラジウムと銀を対象に,(111)面のへき開またはすべりによる電子系のエネルギー変化を,第一原理バンド構造を再現するtight-binding法を用いて計算した.格子変形に対するdバンド電子系の応答の違いにより,遷移金属のパラジウムが,貴金属の銀よりも,格子変形に対する電子系の抵抗が大きいことを示した.また,パラジウムが水素を吸収し,フェルミ準位がs-pバンド内に上昇することにより,格子変形に対する電子系の抵抗は低下する.このことがパラジウムの水素脆化の電子論的起因であることを示した.
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