研究概要 |
本研究では,半導体の破壊に伴う発光,電子放出のメカニズムを解明するための基礎研究として,変形と破壊による原子系と電子系の励起について理論的に研究した. 本年度は,ばねのネットワークモデルを用いて,亀裂進展による原子系の運動の計算機シミュレーションを行った.また,結晶格子のへき開とすべり変形による電子構造変化の計算を行った. 亀裂進展による原子系の計算機シミュレーションにおいては,弾性ばねにより結合した2次元モデル粒子系を用いた.まず,粒子系を一方向に引き伸ばして安定な粒子配置を求め,端の数個のばねを強制的に切断し,その後の粒子系の運動を追跡した.ばねはその長さが限界値に達すると切断されるとした.初期段階の引っ張りひずみを大きくしていくと,亀裂(切断されたばね)が進み始めるが,引っ張りひずみの大きさがあるしきい値を超えると,粒子系から放出される粒子数が急激に増加することが示された.これは,半導体や絶縁体などの脆性材料で観測されている破壊による原子放出現象の特性を再現している.今後,粒子放出のメカニズムを詳細に検討する予定である. また,金属の破壊による電子放出量と放出電子のエネルギー分布,半導体の破壊による電気伝導度の増加を,電子の熱励起の観点から計算し,破断面近傍の励起状態について考察した. さらに,パラジウムと銀に対するへき開とすべり変形による電子構造変化の計算においては,格子変形に対するsバンドとdバンドの電子系の応答の違いを明らかにした.この計算結果にもとづき,パラジウムの水素脆化の電子論的メカニズムを考察した.
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