研究概要 |
我々が当初フォノンを観測していると考えていたNdGaO_3結晶の585nmにおける四光波混合(FWM)の変調信号は、低温での詳しい吸収測定の結果から判断して、複数の吸収線間の量子ビートであると理解すべきであると結論した。その信号波形はNdGaO_3結晶の吸収線が低温で均一に拡がっていることを示しており、興味深いので詳しく解析を行いその成果を論文として発表した。しかし、その成果はこの科研費の研究課題の目的とするフォノン励起とは異なっている。 フォノン励起の研究は、対象とする誘電体としてSrTiO_3,BaTiO_3結晶を用いてラマン励起的なフォノン生成に絞って行った。しかし、BaTiO_3結晶については良質の結晶が入手できず、測定を行えなかった。 【実験装置と方法】 チタンサファイア再生増幅器からのフェムト秒高出力パルスを用いた。出力パルス光は1パルス当たり800(μJ)のエネルギーを持ち、パルス幅は約130(fs)であるので、先頭出力は6.2×10^9(W)になる。チタンサファイア再生増幅器の出力は、2本の強い励起光(波数ベクトルk_1,k_2)と1本のprobe光(波数ベクトルk_3)に分け、BOXCARSの配置で試料を励起した。2本の励起光の時間を同時にしたときの、k_3+k_2-k_1方向に散乱される信号光を、励起光とprobe光の遅延時間τの関数として測定した。 【実験結果】 (1) 測定系の時間分解能のチェックとして、CS_2を試料として用いた測定を行った。信号は2重指数関数的に減衰し、緩和時間は0.4(ps),0.7(ps)と求められた。これらはCS_2のカー効果によるもので、配向分極の緩和に対応する時間である。この測定から、我々の測定系がほぼ0.2(ps)の時間分解能を有することが確認できた。 (2) SrTiO_3の結晶を励起したときの信号波形を詳しく測定した。τ=0のときには、k_3+k_2-k_1方向に強い信号光が回折される。その強度は、大きな非線形感受率を持つCS_2よりも1桁近く強いものである。この信号は主に電子分極によるものであり、SrTiO_3結晶が非線形媒質としても有用であることを示している。しかし、フォノン励起したときに、τ>パルス幅の時間に期待される信号の残存や回折光の変調は観測できなかった。E_2モードフォノンを励起するために2つの励起光の偏光を直交させた場合にも、フォノン励起による信号は観測できなかった。しかし、励起されたフォノンの寿命が長くなると考えられる低温(10K)で2つの励起光の偏光を直交させた測定では、フォノン励起によると思われる信号がパルス幅より後のτの位置にかすかに観測できた。今後、この信号を再確認すること、結晶軸に対する励起光の偏光依存性を調べること等を行う予定である。
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