研究概要 |
GaAs/AlAsタイプ-II超格子では、最低エネルギー状態の励起子は、AlAs層のX点電子とGaAs層のΓ点重い正孔によって構成されており、電子と正孔は実空間と運動量空間の両方において空間分離されている特異的なものである。本研究の目的は、 (1) 励起子分子形成と (2) さらなる高密度励起状態の存在を明らかにすることであり、多様な構造の(GaAs)_m/(AlAs)_nタイプ-II超格子[(m,n)=(10,10),(12,12),(13,13),(10,14),(10,20)原子層]を試料として、発光特性の励起強度依存性と過渡応答に関する測定を系統的に行い、以下の研究成果を得た。 (1) 励起子分子は、励起子寿命が長いことを反映し、10mW/cm^2程度の励起強度で形成されることが明らかとなった。励起子分子発光バンドの形状解析から励起子分子束縛エネルギーを見積もり(2.5〜3.5meV)、(i)m=nの層厚の超格子では層厚が薄くなるに従って束縛エネルギーは増加し、(ii)(10,n)超格子ではAlAs層厚が厚くなるにしたがって束縛エネルギーは低下するという結果が得られた。上記(i)と(ii)は、それぞれ、束縛エネルギーに対する量子閉じ込め効果と電子・正孔空間分離効果を明確に示している。 (2) 励起子分子形成条件よりも3桁程度高い励起強度において(10W/cm^2程度)、全ての試料で、励起強度に対してしきい値特性を有する高密度励起状態特有の新たな発光バンドを観測した(測定温度10K)。その発光バンドは、タイプ-II励起子分子の低エネルギー側に位置し、500meV程度の幅を持つものであり、発光形状は励起強度に依存しない。また、高密度励起状態の発光バンドの寿命は、励起子・励起子分子の寿命(μsオーダー)よりも2桁程度短い数10ns程度である。以上の実験結果と発光形状解析の結果から、高密度励起状態特有の発光バンドの起源は、電子・正孔液滴であると考えられる。
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