研究概要 |
本研究では、強誘電性を誘起する分極の実体の解明、水素結合型強誘電体の誘電相転移の発現機構に関する知見を得ようとする目的で、強誘電物質PbHPO_4(LHP)とその同型物質であるPbHAsO_4(LHA)のラマン分光および顕微ラマン分光を行い、さらにこれらの反射、吸収、発光など光学スペクトルの温度依存性の測定を行った。 1. LHPのラマン分光については申請者等によりこれまで詳細に調べられている。本研究では、LHAのラマンスペクトルを初めて測定することに成功し、これらの温度依存性の詳細な測定をおこなった。これらの結果をLHPの結果と比較し、検討を行った結果、LHAにも10Kで72cm^<-1>にソフト化するモードが観測されること、その温度依存性はLHPのそれに比べて緩やかであることがわかった。さらに、観測されたラマン線のモード同定についても、偏光実験などによりこれを行うことができた。これらの研究成果については、J.Korean Phys.Soc.誌に発表し、さらに現在J.Chem.Phys.にも投稿準備中である。 2. LHPとLHPの基礎吸収領域の偏光反射、吸収、発光、励起の各スペクトルを詳細に測定し,その光学的性質および電子構造について考察した。その結果をまとめると、LHPとLHAの基礎吸収は低温でそれぞれ5.1eVと4.6eVに存在すること、吸収端はアーバック則がよく成り立つこと、反射スペクトルの測定により、それぞれ5.7eVと5.3eVに偏光特性の著しい顕著な励起子構造が観測されることがわかった。得られた吸収端のスティープネス係数は低温から約180Kまで単調に増大するが、そののち減少しT_c以上では一定となるような特異な振る舞いを示すことがわかった。さらに,このスティープネス係数の異常な振る舞いは自発分極の温度依存性と密接な関係があることもわかった.すなわち,LHPでは励起子が水素の秩序化と強く相互作用している系であることをはじめて示した。これらの研究成果についてはJ.Electron Spectrosc.Relat.Phenom誌およびFerroelectrics誌に投稿し、いずれもこの4月に掲載予定である。
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