基底状態がスピン1重項を持つ1次元ハイゼンベルグ反強磁性体に非磁性不純物をドープした時に生じる新しいタイプの磁性を調べる為にCu_<1-X>Zn_XGeO_3の単結晶試料を作成し、Cu核のNMRを行った。非ドープ系のCuGeO_3は、スピン・パイエルス転移によって14K以下の低温でスピン1重項を持つ1次元ハイゼンベルグ反強磁性体である。低温の常磁性相で、非磁性不純物に起因するstaggeredな磁化が誘起されることに伴うNMR線幅の増大が見られたが、Sr_2CuO_3系で報告されているほどには、増大しないことを明らかにした。これは、CuGeO_3系では、交換相互作用定数がSr_2CuO_3系と比べかなり小さく、この効果が顕著に現れる温度領域が低い為と考えられる。一方、Cu核の核スピン・格子緩和率には、非磁性不純物によって誘起されたstaggeredなスピン揺動に起因すると考えられる効果が線幅より明白に現れることを明らかにし、非磁性不純物がスピンダイナミクス、および、核磁気緩和に与える効果について議論した。 さらに、スピン基底1重項を持つ関連物質として、LaCoO_3とRCoO_3(R=Pr、Nd、Sm、Eu)の磁性をCo核のNMRから調べた。LaCoO_3では、Co^<3+>イオンが、低温でスピン1重項、および、軌道1重項である非磁性の低スピン状態をとり、約100K以上で中間スピン状態と考えられる磁気状態に転移することを示した。また、RCoO_3は、LaCoO_3と異なり、300K以下では低スピン状態にあることを初めて明らかにした。両系の磁性の違いは、RCoO_3では、GdFeO_3型の歪みが大きい為、結晶場分裂もLaCoO_3と比べ大きく、スピン基底1重項の低スピン状態をより安定化される為と考えられる。他の関連物質として、酸化バナジュウム(V_<1-X>Ti_X)_2O_3系を取り上げ、V核のNMRから、この系の金属常磁性相でも、基底状態が非磁性になることに対応したスピンギャップの存在を初めて見いだした。
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