研究概要 |
本研究は幾何学的競合のために強いフラストレーションをもつ系のスピンの時空相関と量子効果をモデル化合物を用いた実験と計算機実験により明らかにしようとするものである。取り上げたモデル化合物は磁気鎖か三角格子を作るCsNi(Fe)CL_3とBaVS_3、菱面体型に三角格子が積層したdelafo ssite型構造をもつCuFe_<0.95>Al_<0.05>O_2とAgNiO_2、カゴメ格子をもつSrCr_8Ga_4O_<19>、三角格子とカゴメ格子を複合した格子のCu_9X_2(cpa)_6・nH_2O(X=F,Cl,Br)、三角形の頂点を共有して作られた三次元格子であるwindmill格子であるβ-Mn、頂点共有型四面体格子をもつY(Sc)Mn_2である。 これらのモデル化合物の磁気的基底状態はいくつかの型に分けられる。CsNi(Fe)Cl_3とCuFe_<0.95>Al_<0.05>O_2は最近接より遠いスピン間の相互作用により長距離秩序を示すが、フラストレーションのために複雑な磁気構造をもつ。同じ三角格子でもBavs_3では軌道整列によりフラストレーションを逃れようとし、AgNiO_2ではスピンがランダムに凍結する。スピンの凍結は他のすべての系でもみられるか、スピングラスと異なりWeiss温度が負の大きい値を示す他は、系により性質が様々である。SrCr_8Ga_4O_<19>とCu_9X_2(cpa)_6・nH_2Oではスピンの凍結温度よりかなり高温で磁化率に逆数に折れ曲がりがみられ、モーメントが量子効果により部分的に一重項状態になることを示唆する。さらに、β-MnとY(Sc)Mn_2で見いだされたスピンの凍結は格子の欠陥によって誘起されたモーメントの凍結とみられ、大部分の磁性電子はスピン液体状態にあると結論された。古典スピンの凍結と量子効果がどのような条件で現れるかは今後の問題である。
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