第1に、固体酸素の圧力誘起金属化の振る舞いを理論的に解明する第1歩として、LDA(局所密度汎関数近似)に基づくフルポテンシャルLMTO法で、反強磁性状態の電子帯構造と全エネルギーを、体積の関数として計算し、以下に掲げる重要な知見を得た: 1.体積の大きいところすなわち低圧では、反強磁性、強磁性ともに絶縁体であり、また反強磁性のほうが安定である。 2.体積減少すなわち圧力増加にともなって、バンドオーバーラップによる金属化が起こり(強磁性の場合で29Å^3付近、反強磁性の場合で26Å^3付近)、金属磁性状態が実現される。 3.さらに、体積を減少させると、約12Å^3で、反強磁性、強磁性ともに解がなくなり、連続的に金属常磁性状態に移行する。 4.従って、約100GPa以上では、分子性の常磁性金属状態が実現されていると考えられる。 5.スピンモーメントについては、バンドオーバーラップ後は単調に減少し、常磁性金属状態へと移行したときに完全に消失する。 第2に、酸素と同族であるセレンについて、60GPaから150GPaで実現されるβ-Po構造および150GPa以上で実現されるbcc構造に対して電子帯構造のみならず格子振動および電子格子相互作用も第一原理的に計算し、超伝導転移温度(Tc)の圧力依存性をはじめて評価した。bcc構造のセレンについては、Tcが減圧により著しく増加する結果を得たが、これは、ブリルアンゾーンΓNライン上の横モードの一つが減圧に伴って顕著にソフト化するためであることを明らかにした。また、β-Po構造セレンにおけるTcの圧力依存性については、圧力にほとんど依存しないという結果が得られ、β-Po構造からbcc構造への相転移に際してTcの飛びがあり、大きく上昇することを見出した。
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