本研究の目的は磁性体中に超短パルス光を用いてコヒーレントマグノンを生成させ、その過渡応答の観測から磁性の光学的制御の新しい手法を見出すことである。本年度はマグノン発生の起源であるコヒーレントフォノン(誘導ブリュアン散乱)の観測装置を新たに組み、基本性能を評価した。一方、マグノンを磁気的に検出する手法に関連した測定も行った。 観測したいマグノンは磁気弾性効果や磁歪などを通して音響フォノンモードの一部として現れ、その振動数帯域は1MHz〜10GHzである。一方、発生するコヒーレントフォノンの強度は2本の励起光の入射角をほぼ平行にすることで高められる。このとき振動数はMHz帯域に下がるため、時間分解測定は必然的に計測器の応答範囲内で満足できる(第1法)。この場合、観測システムは光学遅延装置を要する高振動数帯域の場合(第2法)と異なる。第1法の観測システムを組み、種々の液体試料でコヒーレント音響フォノンを検出した。実験結果から、励起光で発生する音響フォノンによる検出光の回析効率には、光吸収により形成される静的な熱回析格子が一種のヘテロダイン検波の役割を果たす寄与が大きいことがわかった(投稿準備中)。マグノンの試料ではこの条件を満たしている(次年度予定)。本装置の検出感度は10^<-4>(最小回析効率)で、マグノンの検出には1000倍の改善を要する。一方、第2法は光路長の長い光学遅延装置を要するが、これを作成し、高繰返しパルスレーザーを用いることで感度が2桁改善された。 磁気検出法の試みを上記と平行して行った。磁性半導体CdCr2S4の試料を用いて光パルス照射による誘起磁化をピックアップコイルで検出した。特にキュリー点(84K)直上での常磁性から強磁性への光誘起転移効果が初めて見出された(投稿準備中)。コイルの時間応答は高々1ナノ秒であり、マグノンの検出にはギガヘルツ帯以下での適用と見込まれる。
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