パルス中性子を用いた分光法では、μeVからeVオーダーに及ぶ広いエネルギーレンジの測定が可能である。またバックグラウンドの低いこともパルス中性子の特長である。パルス中性子源に設置される分光器では、試料槽とその後の中性子飛行槽とを一体の真空槽にすることによって、低いバックグラウンドを実現している。パルス中性子源に設置されたこのような分光器において、単結晶試料を用いた物質の動的構造の研究を行なうために、資料に結晶軸を中性子ビームに対して特定の角度関係に設定する装置(パルス中性子ゴニオ)を開発し、かつ、広いエネルギーレンジにおける分解能関数を実験的に決定する手法を確立することを目的とする。今年度はパルス中性子ゴニオの開発を行なった。パルス中性子ゴニオに要請される条件としては 1)冷凍機と試料との熱接触が十分保たれること 2)冷凍機の最低温度が実現するための真空度が保持できること 3)回転軸を3軸有し、1軸は鉛直軸のまわりに360°、他の2軸は水平面内で直交し±10°ずつ回転すること の3点があげられる。これらの条件達成のために最適なパルス中性子ゴニオの構造として、低温で動作するゴニオメターの実現が不可欠である。ゴニオメターの材質としてリン青銅を選定し、固体潤滑剤を用いることによって、上記の条件が達成されることを見いだし、製作した。また、次年度の研究でとりあげる低次元磁性体の単結晶試料を育成し、そのスピン動特性の測定に備えた。分解能関数を測定するための標準試料(単結晶ゲルマニウム)を選定し、購入した。
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