研究概要 |
本課題では次の問題を研究した。 (1) 磁性イオンの基本的模型であるアンダーソンモデルでは,弱相関の極限でフェルミ流体である。基本のアンダーソンモデルに基づくとき、非フェルミ流体状態は可能であるのか。可能であれば弱相関のフェルミ流体状態との間にどのような転移が生じるのか。 (2) 希薄ウラン系で2チャンネル近藤模型(TCKM)型異常物性を示している可能性の高い物質として、U_xTh_<1-x>Ru_2Si_2がある。この系の電気抵抗は降温につれ減少する。TCKMでは、通常逆に増加が期待されるが、アンダーソンモデルの立場からこれは理解可能か。 (3) TCKMでは絶対零度で残留エントロピー1/2ln2が残る。結晶対称性の低下により、このエントロピーは低温で放出される。これに伴う低温比熱と帯磁率の相互の関連はいかになるか。 本課題により次の結論を得た。(1) パラメータが弱相関から強相関に変化するにつれ、結晶場の状況に応じて、フェルミ流体や非フェルミ状態を含む様々なタイプの基底状態の間の転移が生じ得る。 (2) f^2配位とf^3配位の揺らぎが主の場合、抵抗の温度依存性は降温につれ減少することが予想される。 (3) 残留エントロピーの放出はエネルギー分裂の約10分の1の温度に比熱のピークを作る。比熱ピークの生じる温度で、帯磁率の増大は飽和する。非フェルミ流体基底からフェルミ流体基底への転移の生じるパラメータ近辺でも、非フェルミ流体であれば残留エントロピーは1/2ln2である。 最近U_xTh_<1-x>Ru_2Si_2の磁場中比熱が測定され、残留エントロピーは存在しないことが示された。計算結果に基づくと、通常のTCKM型としてこの系の低温異常の解釈をするのは困難である。格子歪みとの動的Jahn-Teller結合の役割を解き明かすべく研究を続行中である。
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