本研究の目的は、ゲームの動力学的な面を追求する新しいモデルを提案し、そのモデル・シミュレーションを通じて、プレイヤーの合理性や規範の生成を論じようというものである。2年間の研究期間を通じ、次のような成果をあげることができた。 1) 簡単な神経ネットワークを用いて相手のモデルをつくり、それをもとに将来を最適化して手を決めるプレイヤーどうしのゲームの解析を行った。特にゲームの進行に伴い、相手のモデルが有限オートマトン的なものと、より複雑なものとの間を振動する現象を見いだした。またモデルの探索空間がゲームの進行とともに複雑化し、ふたたび単純化する様子を視覚化しあきらかにすることに成功した。 2) 相手のモデルはつねに一意的に決定するわけではない。このモデルの決定不能性を顕わに扱う枠組みを提唱した。ゲームの進行を力学系の軌道とみなし、その近傍の軌道を同時に追いかけることでゲームのもつ不安定性を特徴つけることに成功した。特にまったく異なる終わり方を持つ軌道が入れ子構造をなしている様なゲーム構造が見い出された。また相手のモデルとして、しっぺ返しと呼ばれるモデルが結果として学習され、協調状態がもたらされることが示された。 3) 空間の上を移動しゲームをするプレイヤーのモデルを1)と同じ形式で提案し、動力学的ゲームの一つの定式化を具体的に示した。このゲームでは相手のモデルが周期的に変動する状態が、結果としての動的な協調的な振る舞いをもたらすことが見い出された。
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