多成分流体における輸送現象を記述する現象論について、非平衡熱力学の要請である保存則と不可逆性を基本として、多成分系の各成分の密度、流速(拡散流速)の発展方程式の一般的な形を求めた。その導出の詳細は、Miyazaki-Kitahara-Bedeauxの論文ならびに著書にまとめた。まず、多成分流体においては、内部エネルギーは保存量ではなく、流体運動に伴う運動エネルギーを加えた全エネルギーが保存量となることに注目し、エントロピーの独立変数として、全エネルギー、質量等で表現すると、自然は形で、中心速度、拡散速度が熱力学変数として、エントロピーの表式の中に入ってくる。エントロピーの微係数を示強パラメータとすると、線形応答として、粘性、熱伝導、拡散が、それぞれ流速勾配、温度勾配、相互摩擦抵抗の結果として表現される。可逆部分については、示強パラメータと反対称的な結合をする。 上記の現象論はエントロピーを基礎としているので、ボルツマン-アインシュタインの原理に平衡状態における揺らぎの確率分布を求めることができる。これを手がかりにして、さらに非平衡系における揺らぎに関する確率分布が従うべきマスター方程式を構成した。それに基づき、非平衡開放系の条件で化学振動する系における各化学成分の濃度揺らぎの空間相関の時間依存性を解析的に求め、モデル系に対する計算機シミュレーションとの比較を行った。揺らぎの空間相関もマクロな濃度振動に同期して振動することが分かった。 上記の現象論的方法を基礎付けるために、多成分分子系の力学系の分布関数に対するリウビル方程式がら出発して、分布関数に対する第ゼロ近似として、マクロな物理量によって表される局所平衡分布を用いると、可逆部分に対して確かに反対称な形式(時間反転対称性をもつ)が導かれることを示した。
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