相関の強い電子系のモット転移近傍の電子状態と超伝導転移に関連して、大きく分けて次の3つの題材について成果を得た。1)光電子分光の実験や依田・山田による予備的な計算を通して、モット転移近傍の電子系では電荷のスクリーニング効果が弱いため、電子間斥力の長距離クローン的振舞いが無視できないことが示唆され、従来の理論では無視されていた自己エネルギーの波数依存性による電子の有効質量の減少がその電子状態の特徴だとする新しい知見につながった。今回、この見解を定量的なものにする目的で、d-pモデルや長距離クローンを含めた2次元ハバ-ドモデルの下で摂動計算を数値的に実行し、実験と比較し得る結果を得た。複数のモデルでは同様な計算による結果は、今後得られるであろう複数の物質での実験データとの比較によりどのモデルがどの物質の記述に適当であるかを理解するのにも有用になるであろう。2)酸化物高温超伝導のメカニズムに関わる問題として、低ド-ピング領域でのT_Cのド-ピング依存性などは重大な未解決の問題である。光電子分光によるフェルミ面の観測が示した、いわゆる擬ギャップが超伝導秩序パラメタと同じd_<χ2-υ2>対称性を持つという事実は、擬ギャップが生じ始める温度が超伝導揺らぎのオンセットに相当するという解釈を可能にする。この見地からは、ド-ピングの減少とともに超伝導キャリアー対はより強結合になるという理論的記述が自然である。この強結合理論をd-pモデルに適用して、d_<χ2-υ2>対の超伝導が低ド-ピング領域でどのように生じるかを調べ、さらに計算の精度を上げれば実験データを説明できるだろうという感触を得た。3)相関の強い電子系での乱れの効果も興味ある題材である。今回、磁場下の超伝導現象を対象にこれをとり上げ、乱れと電子間斥力との競合が量子超伝導揺らぎを著しく強めることを示した。
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