研究概要 |
本科学研究費の捕助のもとで,我々は,初年度に引き続き,2個のS=1/2スピンと2個のS=1スピンが交互に並んでいる1次元量子スピン系の基底状態の性質を,数値的方法および解析的方法を用いて研究した。この系において,各最近接スピン間に等方的な交換相互作用を仮定し,S=1/2スピン間,S=1/2スビンとS=1スピン間,S=1スピン間の交換相互作用定数を,それぞれ,J_1,J_2,J_3(正の場合反強磁性的,負の場合強磁性的)とする。 初年度は,Wigncr-Eckartの定理の適用や摂動計算などの解析的方法および密度行列繰り込み群法,量子モンテカルロ法,有限系の厳密対角化法などの数値的方法を用いて,J_3の値をJ_3=1に固定したときのJ_1(J_1>0)対J_2平面上の基底状態相図を決定した。今年度はJ_1<0の場合も調べ,全J_1対J_2平面上の基底状態相図において,2次相転移に関連した4本の相境界線(massless line)が存在し,これらによってこの平面が5つの領竣に分けられ,従って,5つの異なる相が出現することを明かにした。また_r種々のJ_1,J_2の値に対して.基底状態におげるストリングオーダーバラメターや最近接対スピン相関関数を計算し,その結果を参考にして,得られた5種類の相がVBS(Valence-Bond-Solid)描像を用いてどのように表されるかを明かにした。 更に,今年度は,上記基底状態相図に対する,S=1スピンがもつ-イオン型異方性エネルギーの影響を調べた。その結果,容易面型異方性エネルギー定数D(>0)の増加に伴って,新しい2次相転移が存在し得ることが明らかになった。この新しい2次相転移の存在の有無は,D=0での基底状態がどのようなVBS描像で表されているかに密接に関連している。 最近,それぞれが異なった大きさのスピンをもつ2種類のイオンからなる4核クラスターが合成され(例えば,[{Mn(hfac)_2}_2(bnn)]など),それらの磁気的,熱的性質が実験的に研究されている。実験結果との比較を行うことを目的として,我々は,厳密密対角化法を用いて,これらの系に対する,比熱,帯磁率,磁化曲線などの温度依存性を計算した。
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