ガラス転移の統一理論

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09640467
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 小田垣 孝 九州大学, 理学部, 教授 (90214147)
• 研究分担者: 松井 淳 九州大学, 理学部, 助手 (10274424)
• キーワード: ガラス化 / ソフトスフェア-系 / 分子動力学シュミレーション / 感感受率 / 速い緩和過程 / ノンガウシアンパラメーター / Cole-Cole図

研究概要

まず、ガラス化過程の普遍的な性質に対する知見を得るために、引力による副次的な構造が出現する可能性のないソフトスフエア-系の性質を、分子動力学シミュレーションを用いて調べた。
一般化された感受率X"s(q,ω)の波数依存性を、広い温度領域において求めた。過冷却状態では低振動数側の遅い緩和のほかに、高振動数側のミクロスコピックな運動およびその間に速い緩和過程が存在することが示された。後者の二つのダイナミックスの特徴的な時間の波数依存性を詳しく調べ、両者ともある波数でq^2依存性からずれることから、速い過程は原子間距離の程度の運動であり、ミクロスコピックな運動はその3/1程度のスケールの運動であることを示した。
ついで、振動、振動中心のジャンプ運動および揺らぎという三つのモードをもつ3次元立方格子上の粒子を考え、感受率、ノンガウシアンパラメーターなどを厳密に求めた。感受率は、三つのモードを反映した三つのピークからなる。感受率の虚部を実部に対してプロットしたCole-Cole図は、二つの半円からなり、振動は第2象限への巻き込みとして現れ、振動中心の揺らぎは高振動数側の半円のショルダーとして現れることを示した。
これらの特徴を実験およびシミュレーションの結果と比較し、これらの三つのモードが並進運動のガラス化で見られる普遍的なモードであることを示した。また、ノンガウシアンパラメーターの時間依存性を詳細に調べた。
その結果、三つのモードそれぞれの平均2乗変位が交差する時間付近でピークが現れ、二つのピークが存在しうることを示した。

研究成果

• [文献書誌] T.Odagaki: "Non-ergodicity and non-Gaussianity in vitrification process" Prog.Theor.Phys.Suppl.126. 9-12 (1997)
• [文献書誌] M.Higuchi: "Ideal three-mode model for the dynamics of supercooled liquids" Prog.Theor.Phys.Suppl.126. 313-316 (1997)
• [文献書誌] M.Fujisaki: "Molecular dynamics study of a supercooled binary soft-sphere system:Calculation of the genelarized susceptibility in supercooled and glassy states" Prog.Theor.Phys.Suppl.126. 317-320 (1997)
• [文献書誌] T.Odagaki: "Anomalous polarization and tunneling of an electron in a quantum well" Physica B. 239. 141-143 (1997)
• [文献書誌] T.Odagaki: "A unified theory for the glass transition dynamics and its singularities" MRS Procedings. 455. 163-169 (1997)
• [文献書誌] J.Matsui: "Separation of diffusive jump motion and trapped motion of atoms in a glass forming process via molecular dynamics simulation" MRS Proceedings. 455. 285-291 (1997)
• [文献書誌] Y.Terada: "Surface energy of ionized-neutral DDAO micelles" J.Phys.Chem.B. 101 No.30. 5784-5788 (1997)
• [文献書誌] M.Ca'ceres: "Theory of diffusion in finite random media with dynamics boundary condition" Phys.Rev.B. 56 No.10. 5897-5908 (1997)
• [文献書誌] M.Higuchi: "Properties of the ideal three-mode model for the dynamics of supercooled liquids" J.Phys.Soc.Jpn.66 No.10. 3134-3138 (1997)
• [文献書誌] S.Toyofuku: "Properties of granular percolation in two dimensions" J.Phys.Soc.Jpn.66 No.11. 3512-3516 (1997)
• [文献書誌] Y.Terada: "Effects of hydrogen bonding on the surface energy of ionic-neutral DDAO micelles" Prog.Coll.Poly.Sci.106. 83-85 (1998)
• [文献書誌] 小田垣 孝: "非線型ファイバー光学(翻訳)" 吉岡書店, 670 (1997)
• [文献書誌] T.Odagaki: "Dynamics of Glass Transition and Related Topics(編集)" 理論物理学刊行会, 436 (1997)