電子状態計算において、従来の方法に比べ大幅な計算の高速化を可能にしたCar-parrinello法と、シミュレーションの単位胞の形を可変にした圧力一定の方法(Parrinello-Rahman法)を組み合わせ、電子状態が構造・物性に深く関与している共有結合体・金属系などで構造相転移を直接調べることが可能なシミュレーション法を開発・確立していくことを目的として研究を行った。 2つの方法を組み合わせたプログラミングを完成させ、シリコンを対象として8原子系および64原子系でのシミュレーションを行い、圧力変化による相転移を再現できることを確かめた。このプログラムの開発の過程において、Car-parrinello法での運動量の保存則についてと金属系を取り扱うため、準位の部分占有状態を考慮する方法について吟味した。Car-parrinello法では、原子の全運動量はもはや保存量となっていないが、波動関数に関係する項を含めることにより保存則が成り立つ。さらに温度・圧力を制御したときの結果についても調べた。部分占有を考慮するいくつかの方法の中では、エネルギー準位の値に対しある分布関数(フェルミ分布を用いた)の形を仮定する方法が、安定性がよく、シミュレーションに最も適しているという結論を得た。 圧力一定の方法と組み合わせると、電子状態計算の計算労力が大幅に増加するため、現状では、精度の良い計算を行うことはまだ大変難しい。計算が限られた精度で行われているため、行ったシミュレーションの範囲では、結晶構造の対称性に僅かな歪みが生ずること、構造の間の安定性の順序が必ずしも一致しないこと等の不十分な点も見られた。結晶の対称性のずれはブリルアンゾーン内のk点サンプリングの数を増加することおよび部分占有を考慮して、k点内での準位の再分配を行うことにより考慮されていくことを確認した。
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