本研究では密度分布関数のレベルでカオス系等の力学系のふるまいを解析的かつ厳密に調ベ、以下の結果を得た。1)散逸型パイこね変換におけるSRB型測度:Nose-Hoover-Evans型パイこね変換について、不変分布、物理的分布をde Rhamの関数方程式を用いて解析的に構成し、その性質を調べた。2)エネルギー座標を含む多重パイこね変換における微視的散逸機構:多重パイこね変換に運動エネルギーに相当する座標を導入した可逆な保存力学系を構成し、その定常状態、緩和モード、スケーリング極限、過去への時間発展を調ベ、不可逆現象の発現機構と力学的可逆性の関係について詳細な検討を行い、分布の不可逆変化が力学の可逆性と矛盾しないこと等を見い出した。3)2次元量子ビリヤードの境界要素法とFredholm理論:2次元の量子ビリヤードで用いられる境界要素法に現われる行列式D(E)(Eはエネルギー)の諸性質および半古典近似をFredholm理論を用いて調べた。4)量子系の非平衡定常状態:両端が完全導体に接続された一次元導体中を運動する電子系の振舞をC^*代数の手法で調べた。t→±∞の極限で得られる二つの定常状態の性質を詳細に比較することにより、可逆な力学と不可逆な状態変化が両立すること等を示した。5)不安定量子状態:量子不安定状態はGamowベクトルのようなハミルトニアンの一般化された固有関数で表すことができる。相互作用する二つの不安定状態の性質、不安定状態を表すために必要な超関数の数学的性質を調べた。この他、6)カーボン・ナノチューブの物性、7)Hopf分岐を示す方程式および間欠性写像の分布の時間発展演算子のスペクトル分解、8)周期的間欠性写像の輸送現象、9)反応拡散型多重パイこね変換の定常解などの研究も行った。今後はメゾ系等の物質系の非平衡状態を対象に本研究を展開する予定である。
|