研究概要 |
初年度には低エネルギー原子及びイオンと表面との衝突相互作用による表面フォノンの精製・破壊現象の理解に努めた。入射He原子、He^+イオンとNi、Cu固体表面とのポテンシャルエネルギー面を数例につき計算した。モデル計算として入射エネルギー10meVから1eVの範囲で電荷移行過程につき調べ、低エネルギー衝突でも電荷移行断面積が10^<-16>cm^2にもなることが分かった。次年度は固体表面への分子吸着と、吸着分子の励起振動エネルギーの固体への散逸過程につき研究した。数eVでの分子衝突過程では並進・振動相互作用及び分子振動・表面フォノン相互作用が主で、吸着は分子間の結合を切らずに起す分子状吸着と、吸着後に分子が解離する解離吸着との分けられる。我々は分子・表面系のポテンシャル面は初年度に精度良く求めたものを使い、ダイナミクスは量子論によるclose-coupling法を用いて分子吸着機構を詳細に調べた。最終年度はH_2、O_2分子とNi,Cu、Fe表面との衝突によるエネルギー交換過程をシミュレーション法を用いて調べた。半古典論で扱い、運動エネルギーE(0.1〜10eV)、内部状態としての振動回転量子状態(v、J)、及び表面温度をパラメターとして変化させた。吸着過程、それによるエネルギー移動過程、エネルギー散逸過程につき明らかになった点は:(i)H_2の場合:E<1eVでは、振動回転基底状態にあるH_2は表面と衝突し数回表面上を跳ねた後、表面吸着する。H_2が高い振動回転状態(v=5-10,J=10-29)の場合、基底状態の場合に比べ数多く表面と衝突を繰り返し、最終的に吸着する場合もある。衝突後かなりの時間経過後にエネルギー散逸過程が始まり、表面フォノンとして励起分子から移り出すのが分かった。(ii)O_2の場合:E<1eVの場合、振動回転基底状態にあるO_2は表面と衝突し数回表面上を跳ねた後、表面に捕まるが、跳ねる回数はH_2に比べ少ない。また表面との衝突による衝撃で、分子の向きによっては解離を起す分子もある。分子振動励起エネルギーはすぐに固体表面原子には移らず、この場合もエネルギー散逸は遅い過程であることが分かった。また表面原子種を重い原子に変えることにより、表面第1層に移った振動励起エネルギー(フォノンエネルギー)が第2層以下に移らず、表面に局在する現象も見られた。
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