研究概要 |
多価イオンによる電子捕獲過程には低い衝突エネルギーにおいて極めて興味深い現象、つまり(a)衝突エネルギーを下げると断面積がゆっくりと増加していく現象(オ-ビティング)および(b)ある特定の衝突エネルギーにおいて断面積が鋭いピーク状になる共鳴現象が現れることが予想されている。 当研究はこれまで蓄積して来た技術を用い、低エネルギー衝突における準分子形成による共鳴現象を理論的に解明することが目的である。アルカリ金属原子および励起状態にある水素、ヘリウム原子は分極率が非常に大きく、共鳴現象が起こりやすいと思われるのでこの課題研究では特にそれらの標的に力を入れることにした。計算によってどの系で、どのような衝突エネルギーでこの共鳴現象が観測できるか提案できれば、実験は非常にやりやすくなる。これまでに以下の成果が得られている。 (1)共鳴現象が現れるにはその系のポテンシャル曲線に引力部分がなければならない。しかしこの条件を満たしてもポテンシャルの交差の仕方により共鳴現象が現れる系とそうでない系がある。最初に非経験的な電子状態計算用プログラムを用いてBe^<q+>+H、He(q=2-4),B^<q+>+H,He(q=2-5),C^<4+>+H,N^<4+>+H,N^<5+>+H,という衝突系および標的がアルカリ金属原子である系Be^<q+>,B^<q+>+Li(q=2-5)に対してポテンシャル曲線を描き、共鳴現象が起こるかどうか調べた。 (2)(1)の結果にもとづき、多チャンネルの取り扱いがやさしい半古典的緊密結合法に基づき、Be^<2+>,Be^<3+>+H,He,C^<4+>+H,N^<4+>+H,N^<5+>+H,B^<3+>+Liという衝突系に対して断面積を求め、予備的考察を行った。 (3)(2)の結果にもとづき、衝突系Be^<2+>,Be^<3+>+He,C^<4+>+H,N^<5+>+H,B^<3+>+Liに対して量子力学的緊密結合法を用いて低衝突エネルギー領域(数meV〜100eV)で断面積の計算を行った。この結果によるとこれまで扱った系のうちB^<3+>+Li系が最も高い衝突エネルギー(E≦0.5eV)で共鳴が観測されることがわかった。 (4)(3)の結果の一部が得られた段階でオーストリアIAEAにJanev博士を訪ね、本研究計画に対するレビューを受けた。
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