融点近傍の液体セレンは共有結合で結ばれたらせん型の鎖状高分子からなる液体半導体であるが、高温高圧下の超臨界領域(臨界温度:1615℃、臨界圧力:385bar)に金属的な性質を示す流体セレンが出現することが知られている。本研究は、臨界点近傍の密度揺らぎが金属化とどのような関りを持つか調べるため、高温高圧下の超臨界流体セレンのX線小角散乱実験を行う。まず高温高圧下でX線小角散乱実験を行うため入射X線用の高圧窓としてダイヤモンド、散乱X線用には径の大きいベリリウムを用いた高圧容器を開発した。これまではベリリウム入射窓からの小角散乱が大きなバックグランドを与えていたが、これによりバックグランドが小さくなりスペクトルの精度が向上した。次に圧力媒体に用いるヘリウムガスからの散乱の評価を行った。10MPa、20MPa、40MPaと圧力の増加に比例してヘリウムガスからの散乱強度は増大した。各圧力におけるヘリウモガスの密度、圧縮率、X線に対する原子形状因子は既知なので、高圧容器内のX線の通り道にあるすべてのヘリウムガスが散乱に寄与することさえ考慮すれば、ヘリウムガスの散乱強度曲線を計算することができる。計算値は実測値とほぼ一致する波数依存性を示し、実測された散乱強度の絶対値を評価するために必要な比例係数を得た。この比例係数を用いて流体セレン小角散乱スペクトルの絶対値を評価することができた。流体セレンの小角散乱実験は、臨界温度近傍の1630℃で臨界圧力近傍の圧力変化を調べ、初めて臨界散乱の測定に成功した。オルンシュタイン・ゼルニケの式から相関距離を求めると、臨界密度(1.85g/cm^3)に一番近い40.1MPaの点で19Åの値が得られた。今後測定範囲を広げ、密度揺らぎの相関距離と金属化との関りを明らかにして行きたい。
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