我々は、セレンや水銀などの超臨界金属流体を対象に研究を行った。融点近傍の液体セレンは共有結合で結ばれたらせん型の鎖状高分子からなる液体半導体であるが、温度圧力を制御して体積を膨張させると高温高圧下の超臨界領域(臨界温度:1615℃、臨界圧力:385bar)に短い鎖状分子からなる金属的な性質を示す流体セレンが出現する。臨界点を迂回してさらに体積を膨張させると、金属流体セレンは2原子分子からなる絶縁体気体へと転移する。本研究では、A.半導体液体が金属化するメカニズム、B.絶縁体気体が金属流体に凝集するメカニズムと臨界点近傍の大きな密度揺らぎとの関わり、の2点に着目して、流体セレンの構造変化を多角的に検討するため、X線回折実験、XAFS測定、及びX線小角散乱実験を行った。まず、半導体-金属転移(テーマA)に伴う構造変化を調べるため、SPring-8の放射光を用いて高温高圧下の流体セレンのX線回折実験を行った。その結果、転移に伴い2配位構造は保たれるが結合距離が短くなること、さらに結合距離の分布が対称的なものから金属化の促進に伴い非対称なものに変化することが明らかになった。この結合距離の収縮はXAFS測定によっても確認された。次にBのテーマに関しては、金属流体から2原子分子の領域にわたる広い密度範囲のXAFS測定と、臨界密度近傍のX線小角散乱実験を行った。XAFS測定の結果、臨界密度を境に低密度側は主に2原子分子からなる流体であるが、高密度側は2原子分子と鎖状分子が共存していることが明らかになった。小角散乱実験により見積もられた相関距離から、臨界密度近傍の流体は約20Aのスケールをもつ密な領域と粗な領域が入り交じったものと考えられる。密な領域では2原子分子は結合して黙る実験で観測されたように鎖状分子を形成すると考えられる。このように密度揺らぎが2原子分子の凝集を促進するという実験的な知見を初めて得ることができた。
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