研究概要 |
本研究の目的は,波形制御された超短光パルスを利用して,固体表面上の特定の振動のみを選択的にコヒーレント励起することで,構造相転移を誘起させたり,その結合が離れるまで励起を続けることで,物理的な原子脱離を行うことである.平成9年度は主に、コヒーレント励起された格子振動(コヒーレントフォノン)を生成・検出するための光学系の作製に取り組んだ。それと平行して、コヒーレントフォノン励起による原子脱離・構造相転移を起こしやすい物質の探索を行った。その物質の候補として、有機・無機複合型量子井戸物質、1次元π共役系ポリマー等を選んだ。これらの物質は電子励起状態(励起子)とフォノンが強く結合しているため、本研究の目的に最適であると考えた。平成10年度は、前年度に完成した光学系を用いて、コヒーレントフォノンの生成・検出を確認した。物質としては、既に観測が報告されているBiを用い、高感度で検出可能であることがわかった。さらに、パルス列を用いることによって、特定のフォノンを選択励起し振幅の増強および抑制が可能であることを示した。また、対象とする物質の基礎物性の研究として以下の2つを行った。(1)1次元π共役系ポリマーの励起子とフォノンの相互作用、およびその緩和過程を解明した。(2)有機・無機複合型量子井戸物質の(C_6H_<13>NH_3)_2PbI_4を用いて、励起子物性およびコヒーレントフォノンの生成も確認した。研究期間は終了するところであるが、現在、これらの物質を用いて、コヒーレントフォノン励起の原子脱離・構造相転移の研究を行っているところである。
|