研究概要 |
本研究は,現場観測に基づいて地震の遠隔トリガリング現象の実体を明らかにし,その発生メカニズムを解明することを目的として実施されたものである.平成10年度5月より岩手県西部の葛根田地熱地帯に微小地震観測点を設け,高感度の連続観測を開始したが,1998年9月3日の岩手県内陸北部地震M6.1の発生により,観測点維持が困難となった.そこで,本研究では,葛根田地熱地帯の東約5kmに設置されていた高感度広帯域地震計データと葛根田位置熱地帯で記録された過去の可視記録データを合わせ,観測研究を継続した.その結果,大地震によって誘発されたと考えられる3つの事例を摘出することができた.さらに,葛根田地域と世界各地で報告されている誘発地震を系統的に整理し,定量的な考察を行った.その主な結果は以下の通りである. 1.トリガーを引き起こした地震のマグニチュードと震央距離の関係について,理論動的歪み波形を計算し,検討した.その結果,大地震による遠隔トリガー現象が発現するには,その場所での歪み量が10^<-7>strain程度を越える必要があることが明らかとなった.この歪み量から推定される応力変化量10^3Paは,地震時の応力降下量に比べて3桁以上小さい. 2.誘発地震は,地震波通過時の一時的なものではなく,0.1-1時間の時間遅れをもっことが明らかとなった. 3.以上の誘発地震の特徴と,地熱・火山地帯で遠隔トリガー現象がしばしば観測されることから,遠隔トリガーのメカニズムには,マグマ性流体や熱水などの地殻内流体の間隙圧増加過程が密接に関係していることが推察された. 本研究では,予期せぬ地震災害のため,当初計画していた観測を変更せざるを得なかった.しかし,以上の成果は,地震の遠隔トリガリング現象の理解を一歩前進させるものであり,今後のより定量的な研究に大きく貢献するものと考える.
|