研究概要 |
地殻から上部マントルにかけての領域はかなりランダムに不均質であり,その中での波動伝播はかなり複雑であるが,数Hzから十数Hzにかけての周波数帯の地震波の伝播特性を知ることは地震による構造物の被害を考える際に重要である.これら高い周波数の地震波は非干渉性の散乱波の重ね合わせから成るとの考えから,エネルギー輸送理論的なアプローチが有効であると考えられる.本年度は,ダブルカップルのような電源からの非対象象輻射の場合について,多重散乱をも考慮したエネルギー輸送理論の定式化を行った.電源からの輻射パターンを球関数を用いて展開し,時間についてラプラス変換,空間についてフーリエ変換をすることにより,解析的な解を得ることができる.この解は,直接波の附近では震源の輻射パターンを忠実に反映するが,経過時間の増加と共に散乱の効果が強く現れ,球対象輻射の場合の解に漸近する.次にこの解をグリーン関数として用いて,強震記録の波形エンベロープから断層面上におけるエネルギー輻射量の空間分布と観測点のサイト増幅係数を推定するインバージョン手法を提案した.これを1994年三陸はるか沖地震に適用し,地震断層面上における高周波エネルギー輻射量分布の推定を行った.その結果,高周波エネルギー輻射量分布と,低周波波形インバージョンによる断層面上のすべり量分布とが必ずしも一致しないことがわかった.高周波エネルギーは,その大部分が破壊の急激な成長・停止に伴って輻射されているものと考えられる.また,この地域での地震波形エンベロープの特徴をつかむために,宮城県津山町における臨時観測点で小地震の高周波数地震波形収集を開始した.上記研究と併行して,地球の不均質構造における地震波動伝播と散乱に関する総括的な報告書を執筆・刊行した.
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