本研究では、兵庫県南部地震を引き起こした淡路島の野島断層を対象として、陸上と掘削した地殻深部のいろいろな深さにおける熱年代学的解析から活断層の運動による発熱現象の実証を目指している。平成10年度は、陸上部分と地質調査所平林コア試料についての予察的な分析を行うことができた。 コア試料ではすべて花崗岩・花崗閃緑岩より試料採取した。また比較のために、平林掘削地点付近の地表に露出する野島断層破砕帯に接した花崗岩、及び断層から東側に20m離れた地点の花崗岩からも試料を採取した。これらを鉱物分離することにより、適量のジルコンとアパタイトを得た。トラック長測定のルーチンに従い研磨とエッチングを行い、画像処理装置を用いてHorizontaI Cofined Track(表面トラックやクラックなどを通じて二次的にエッチングされる結晶内部のトラックで、観察面に平行な全長をもつもの;HCT)の長さを測定した。 アパタイトは自発トラック密度が低いため(<10^5/cm^2)、十分な数のHCTを観察することができなかった。これに対して、ジルコンでは自発トラック密度が十分高いので(>10^6/cm^2)、HCTの長さ分布を求めることができた。その結果、平林コア中の破砕帯近傍の試料から、有意に短縮し、かつ、バイモーダルなピークを持つトラック長分布が得られた。一方、陸上部分の断層では短縮が見られなかった。これらは、大学500mコアのデータにも共通に見られる特徴であり、地下深部での断層沿いの何らかの温度異常、たとえば断層運動による摩擦熱の発生、ないしは熱水等による地殻深部からの熱輸送を示す。また、今回の測定では平林コアのトラック長分布が断層中軸帯に対し非対称であったことも分かった。
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