研究概要 |
南極大陸氷床はアクセスが困難であり,これまで,主として航空写真をもとに地形図が作成されている。しかし,その精度は内陸に向かうにしたがい悪くなる。氷床域を観測した合成開ロレーダ(SAR)データに干渉SAR処理を施すと,干渉画像には地形に起因した干渉縞(地形縞と呼ばれる。)と氷床の変動に起因した干渉縞(変動縞と呼ばれる。)が表れる。干渉SARにより氷床域で高分解能の地形標高データを得ることができるが,氷床は常に変動しており,地形標高データを得るには地形縞と氷床の変動により生じる変動縞を分離しなければならない。通常,既存の地形標高データを利用して地形縞と変動縞を分離するが,正確な地形標高データのない南極氷床上ではこの方法は使えない。そこで,3パス干渉法という方法を用いた。これは,変動量が同じであれば同じ変動縞が表れるという性質を利用して,同じ領域を3回観測して得られた3枚のSAR画像から2枚の干渉画像を作成し,変動が定常的という仮定のもとに,変動縞を相殺し,地形縞だけを取り出すという方法である。 リュツォ・ホルム湾周辺では同じ領域を繰り返し観測したJERS-1のデータが得られている。このうちの1996年6月16日,7月30日,9月12日に観測されたデータに3パス干渉法を適用し,観測領域内の大陸氷床上の大半で地形標高データを得た。得られた地形標高データを既にある地形図と比較したところ,海岸から10〜15キロメートル付近(標高600mあたり)まではよく一致しており,より細かい起伏も見えていることがわかった。それより内陸側では,地形図とはかなり異なっており,今後,現地での検証が必要である。一方,干渉画像から地形縞を取り除くと変動縞が分離でき,GPSで得られた氷床上の1点での移動速度をもとに,氷床の変動や氷河の中流付近の流動速度も求めることができた。
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