本研究では、北太平洋西部亜寒帯海域における渦の構造・変動の実態を明らかにするとともに、その機構をモデルを用いて考察した。海洋観測から、千島列島ウルップ海峡の南方のほぼ同じ位置に、毎年夏季に時計回りの高気圧性渦流が観測された。この高気圧性渦は、低温の核を持つが、低塩分のために中心付近が低密度となり、高気圧性の渦となっていた。また渦核は密度26.8を中心に低渦位となっていた。これらの水塊構造は、この渦がオホーツク海から流出した水塊によって形成されていることを示していた。一方、人工衛星海面高度計資料を丹念に調べた結果、この高気圧性渦は、ウルップ海峡南方で局所的に形成される場合と、日本付近に存在した黒潮系暖氷塊がウルップ海峡付近まで移動し、そこでオホーツク海水の供給を受けて強化されるという、2つの形成過程があることが明らかとなった。渦の強化はいずれの場合でも夏季から秋季に生じており、冬季から春季には渦は北東方向に移動しながら減衰した。この年変動は亜寒帯循環の年変動と良く対応していた。 これら渦の形成・強化、移動を説明しうる、理論モデルを開発した。黒潮暖水塊、および、千島渦の千島カムチャッカ海溝最深部に沿った北東方向への移動は、移動経路の深層流が北東向きであることに起因する疑似β効果による可能性を始めて指摘した。ウルップ海峡南での高気圧性渦の形成・強化については、海峡から流出する低渦位水による渦形成理論を適用し、オホーツク海からの流出がある閾値を越えると渦が形成される、ということを明らかにした。この閾値は、本研究からも明らかにされた西部亜寒帯循環の年変動に対応して増減し、西部亜寒帯循環が弱まる夏季から秋季に閾値が減少し、渦が形成され、西部亜寒帯循環が強化される冬から春季にかけて閾値が増加し、渦の強化が終わり減衰するという、観測結果を良く説明する理論を提案することができた。この理論から得られる閾値は、北太平洋中層水の形成に必要とされる親潮流量3-7Svと非常によい対応(4-6Sv)を示した。
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