研究概要 |
ウシュコフスキー氷冠コア(212m)を物理・化学的に解析し、種々のシグナルからアリューシャン低気圧活動に関連する情報を読みとることで、アリューシャン低気圧活動の復元を試みた。 分析した陽イオンはNa^+,K^+,Mg^<2+>,Ca^<2+>,陰イオンはCl^-,NO^-_3、,SO^<2->_4である。Na^+,K^+,Mg^<2+>,Ca^<2+>,Cl^-, SO^<2->_4は、火山灰の層準で著しいピークを示し、これらのイオン種が火山噴火に影響を受けることが示唆される。一方、NO^-_3は35.49mのベズィミヤニィ火山起源の火山灰層と、51mの給源未知の火山灰層の層準を除き、火山灰とは明瞭な対応が見られない。NO^-_3には、火山灰層と無関係の周期的な変動が認められる。その変動は、Shiraiwa et al.(1999)によって季節変動が確認されている酸素同位体比と良く一致する。従ってNO^-_3も季節変動するものと思われ、その原因は、工業活動の乏しいカムチャッカ半島では、季節的な裸地の拡大と森林火災などに求められる可能性がある。 次いで、酸素同位体比とNO^-_3のひとつひとつの季節変動幅を読みとり、これに密度を乗じ、モデルによってThinning rateの補正を施すことで、ウシュコフスキー氷冠の年々の質量収支(水当量)変動を読みとった。これをウシュコフスキー氷冠の山麓の町、クリュチの年間降水量と比較したところ、5年間の移動平均で見る限り、両地点の降水量には良い関係が見られ、氷コアから降水量の復元が可能であることを示唆する。また、1970年代中頃から生じたアリューシャン低気圧の強化に応じるように1980年代中頃までウシュコフスキー氷冠での総降水量が増加している。これは、近年注目されている、DICE(Decadal Interdecadal Climatic Event)の記録が本コアに記録されている可能性があることを強く示唆するものである。 以上のことから、当初の目的である過去200年には及ばないものの、過去70年間に関しては、アリューシャン低気圧活動の一つの側面である総降水量の復元が可能となった。また、同じ手法を更に深部まで延長することにより、DICEの復元ができる可能性を示すことができた。以上を本研究の結論と位置づける。
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