研究概要 |
九重硫黄山は,九重連山のほぼ中央部に位置し,それからマグマ性の水を放出している。その放出過程でマグマ性の流体は,天水と相互作用を起こし,その結果,火山体の内部に,天水の深部にわたる対流支配の速い循環が駆動され,噴気及び温泉水として噴出の現象を起こす。とくに,天水とマグマ性蒸気との混合は,臨界温度以上の高温蒸気領域で行われ,地表に噴気として流出する。蒸気系の周りには,液体による深い循環系が形成され,その一部は,噴気地の緑辺部で温泉として流出する。さらに,他の一部は,山麓の方向に流出しているものと考えられる。液体循環系には,マグマ性の流体は確認できないが,化学成分に,強酸性,高塩分という特徴がある。 本年度行った研究は,これまでの噴気地周辺に限っていた対象範囲をさらに広げて,火山の山麓部までの広い範囲とし,全体の流域における水循環の状態を調べるとともに,火山体から流下する火山性流体の行方を探ろうとした。データロガによる湧水の温度観測は継続中である。湧水、河川水について,化学成分,水素と酸素の安定同位体比及びトリチウム濃度を測定して,その分布の状態を,まず,明らかにした。それによると,湧水,河川水の温度,化学成分,水素と酸素の同位体,さらに,トリチウムの各濃度が,標高と強い相関のある特徴的な分布を示すことが明らかになった。しかし,火山の影響を受けた水の流出は,九重連山の限られた流域で見出され,全体的に,拡散していないことが知られた。現在,解析を進めているが,これによって,火山体全体の水循環系における火山性の流体の放出過程の位置付けが明らかになるものと思われる。
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