平成9年8月から11月までの3ヶ月間にわたり、豊後水道東岸の内海(うちうみ)の水深mの地点に海底設置型のADCP(超音波多層流速計)を設置し、2m毎に34層の流速を15分間隔で測定した。また、同じ地点に愛媛県漁連が設置した多層水温計による9層の水温観測データの提供を受けた。これらのデータと、平成7年に同じ地点で行った表層、底層の2層での水温観測データを解析した。その結果、底層水温の変動には明瞭な周期性が認められ、夏から秋の小潮の頃に水温が低下することが明らかになった。このことは、本研究の対象とする現象であるbottom intrusion(豊後水道底層に陸棚斜面域から高栄養塩の低温水が流入する現象)が小潮の頃に起こることを示している。この海域には夏季に急潮(表層に豊後水道南部の太平洋から高温水が流入する現象)が発生し、この現象も小潮の頃に起こることが知られているが、bottom intrusionは急潮よりも規則正しく起こることが認められた。このようなbottom intrusionの周期性は、この現象の発生機構を解明するための重要な基礎的知見である。また、bottom intrusionによる水温低下の後には通常水温が上昇するが、流速データの解析によって、この上昇は主として低温水の湾外への流出によって起こることが明かとなった。このことは、豊後水道底層に流入した低温水がそのままそこに滞在して鉛直に混合するのではなく、かなりの部分が再び陸棚斜面域に流出していることを示唆している。
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